中国における外資企業の休眠 執筆日:2020年2月28日
2020-05-31中国における外資企業の休眠
中国には休眠制度が無い事は、比較的広く理解されています。では、実務的に、類似の効果を出す方法は無いのでしょうか。また、行政機関の手続を取らずに、会社を休眠状態にした場合、どの様な問題が生じるのでしょうか。
実務的なポイントを踏まえて解説します。
1.企業の活動停止
「会社法」・第 211 条には、会社設立後、正当な理由なく、6 ヶ月を超えて営業を開始しない場合、若しくは、開業後、やむを得ない理由なく、6 ヶ月間超の期間、連続して活動を停止した場合、会社登記機関(市場監督局)は、会社の営業許可証を取り消すことができると規定されています。
また、「企業法人登記管理条例」・第 20 条には、「企業法人が活動を休止(中国語:歇業)した場合、取消された場合、破産宣告した場合、若しくは、その他の原因で営業を終了した場合」、会社の登記機関(市場監督局)で、抹消手続をしなければならない事が規定されています。以上より、企業が 6 ヶ月超活動を停止した場合、法的には、会社登記の抹消が義務付けられますので、休眠は認められません(注)。
注:
外国企業・外国人には直接関係がないですが、「定期定額徴税方式を採用する個人経営者(中国語:個体戸)、若しくは、定期定額の徴税に基づき管理する個人独資企業の場合、税務登記管理弁法・第 21 条~ 25 条に、操業休止手続(市場監督局に対する休業の登記)が認められています。
2.登記抹消要請に関する実務
法律上は、上記1の通りですが、実務上検証が必要となるのは、「活動停止というのは、どの様な状況を指すのか」、「行政機関は、どの程度厳格に管理を行っているのか」という点でしょう。
上海市・広州市の市場監督管理局に実務状況をヒアリングしましたが、「会社が一時的に操業を止める場合、これを認める手続(操業休止の登記)は無い。但し、期限通り年度報告(年一回のオンライン手続)を行い、会社の担当者と電話連絡ができる場合は、通常、営業許可証の取消までは求めない」との事でした(注2)。
注2:
今回の新型肺炎は特殊事情であり、政府機関の指示もあるため、状況説明をすれば、(6 ヶ月ではなく)感染防止危険終了まで、活動停止期間を延長することができる、との回答でした。
また、以前は、発票を発行しない月が 2 ~ 3 か月続くと、税務機関が税務登記の抹消を要請する傾向があり、その後、企業登記抹消(清算)に移行する結果となりました。
これに関する最近の状況を、上海・広州の税務機関にヒアリングしましたが、双方、収入が無い状況が続いても、毎月、適切に税務申告をすれば(収入ゼロの前提)、問題ないとの回答でした。
上記の市場監督局・税務局でのヒアリング結果を踏まえると、会社として実質的な活動を停止し、収入が無い状況が継続しても、毎月の税務申告と年度報告を、適切に対応すれば、会社登記抹消は不要となり、かつてに比べると、行政機関の対応は、柔軟になっているように思えます。
注意を要するのは、税務申告・年度報告を適切に実施しないと、経営異常者リストに掲載され、情報公開されるだけでなく、法定代表人、その他の情報が公安、税関、税務局等の政府機関に通告される点で、この体制整備は必須です。
3.実質的な休眠の実務上の問題点
税務申告・年度報告を適切に行えば、実質的な企業の経営活動を停止してもよいというのは、日本の休眠と、ほぼ同様です。****
ただ、中国では、税務申告は月次で実施する必要が有りますので(日本に比べると、各段位手間はかかる)、記帳代行会社などに対する委託コストは生じます。
また、中国は、原則としてペーパーカンパニーが不可であり、物理的なオフィスと社員(社会保険納付必要)の存在が必要条件として挙げられます。
よって、収入0申告を継続すればよいとはいえ、オフィス家賃と、最低 1 名の人件費・社会保険料が必要コストとなります。
ただ、人員に付いては、かつて、行政機関による共同年次検査が実施されていた時代(2014 年以前)は、社員不在の場合、営業許可証の更新ができない場合が多かったのですが、最近は、社員無しでも問題提起を受けない事例が増えています。この点は、リスクはありますが、状況を見て判断可能です。
オフィスに付いては、特定の地域では、行政機関黙認で、登記住所借りが行われている事例は有りますが、それ以外の地域では、サービスオフィスとの契約などの形で、最低限のスペースを確保する必要が有ります。
この様なコストが、実質的な休眠の必要コストとなります。