発生基準での売上計上と増値税の関係 執筆日:2019年12月16日

2020-05-31

発生基準での売上計上と増値税の関係

中国の会計実務上、よく問題になるのが、「発票基準の採用を余儀なくされる(適切な会計処理ができない)」という点です。

今回は、発生基準採用の実務上の問題点について解説します。

1.会計と税務の違い

売上計上基準(物品売買取引の収益計上基準)は、中国の会計規則(企業会計制度・企業会計準則)には、「契約の締結・所有権と付随するリスクの移転」、「収入とコストの適切な計測」という条件を満たした段階で認識する事を定めています。これは、発生基準による計上を意味しており、欧米の考え方と、大きな違いは有りません。

一方、増値税暫定条例では、物品売買について、納税義務の発生時期を、以下の通り規定しています。

● 物品または課税労務の販売は、販売代金の受領、または販売代金請求書を取得した当日。先に発票を発行する場合、発票発行の当日。

つまり、増値税の納税義務は、商品の引き渡し時点ではなく、支払時点で発生します(但し、発票を先に発行した場合は、発行時点で納税義務が発生)。

ただ、原則論としては、経理処理と税務処理は、必ずしも一致しなくてもよいので、各々の基準に従い処理すればよい様に思えますが、実際には、それが認められません。これは、毎月提出する増値税申告表において、税務機関が、売上・売掛金の計上と、増値税納税額の一致を要求するためです。よって、会計基準・増値税暫定条例の双方に従った処理(引き渡し時に売上は計上するが、増値税は回収期限まで納税しない)を行うと、当然、税務機関の要求を満たすことができませんので、申告が受理されないという問題があります。

2.ユーザンス取引における実務上の対応

上記1の問題を解消する方法として、実務上は、以下の方法が採られています。

前提:売上金額 1,000 増値税 130

引渡し時期 10 月 支払時期 12 月

1)引き渡し時(10 月)の処理

売掛金 1,130 | 売上 1,000

未払税金(未開票収入)130

2)回収期限(12 月)の処理

売掛金 ▲ 1,130 | 売上 ▲ 1,000

未払税金(未開票収入)▲130

売掛金 1,130 | 売上 1,000

未払税金(開票収入)130

この処理の意義は、増値税申告表に、「未開票収入」の項目があるため、引き渡し時(10 月)には、発票を発行しない状態で増値税を納税し、未開票収入の欄に売上高と増値税額を記載。その後、本来の回収期限(12 月)に、10 月の逆仕訳を入れてキャンセルし(増値税申告表にもマイナス記載)、正規の計上を改めて行うというものです。

この方法により、発票は回収期限に発行するものの、売上計上時に納税を行う事ができる事になります。

ただ、上海の税務機関にヒアリングした結果では、未開票収入項目を使用した場合、状況説明書の提出が求められる税務局がある(例:徐家汇税務局は不要だが、外高橋税務局は提出必要)事や、稀の使用(年 1 ~ 2 回程度)は可能ながら、頻繁に使用する事は認められません。

つまり、この方法は、例外的な処理としてのみ認められ、常時、使用する事は認められていません。結果として、発票基準(俗語。増値税発票の発行に基づき売上を計上する方法)を採用せざるを得ない状況が、会計実務においては、依然として改善されていない事になります。