転廠取引と保税区域游【水野コンサルタンシー中国ビジネス情報】ダイジェスト版Vol.233
2024-08-06【中国ビジネス・トレンド】転廠(深加工結転)取引と、転廠せずに保税区域游を選択する場合
1.転送取引とは何か。その類型は?
(1)転廠とは
転廠(深加工結転)とは、加工貿易企業間で、保税状態のまま、中国内で貨物を直送する取引です。加工貿易とは、原材料を保税状態のまま輸入し、加工後の製品を輸出する取引です。よって、輸入契約と輸出契約の双方が、必ず存在します。
ただ、中国内で複数の加工貿易が行われる場合(一次加工と二次加工が行われる場合)、契約通りに貨物を動かすと、時間とコストの無駄となるため、これを考慮し、契約通りの税関手続き(輸出通関と輸入通関)をするものの、加工貿易企業間での貨物の直送が認められるのが転廠です。
(2)転廠の類型
転廠の代表的な形は、以下の二種類です。この違いは、加工貿易の委託者となる外国企業が複数あるか、同一企業かの違いですが、双方、取引は成立します。
図1
図2
次は、加工貿易企業が二社では完結せず、それ以上のサプライチェーンとなる場合です。
転廠は、税関審査(税関システムでの報告と受理)は、二社間の取引が対象となります。最初の転廠終了後(下の図では、C・D間の転廠。その後の加工企業Dの加工終了後)、再度、転廠をする時点では、前の転廠は、既にリセットされているため、D・E間の転廠に関しての審査のみが行われます。
この様に、転廠が継続し、複数のチェーンとなる場合も、少なからず存在します。
図3
図4
2.転廠の前提と保税区域游
上記の通り、中国内での加工工程が多い加工貿易に関しては、転廠は、非常に便利な取引ですが、重大なネックが有ります。
それは、転廠に際して価格が変えられない事です。
加工企業CとDの関係でいうと、Cの転出価格とDの転入価格を100で統一しなくてはなりません。
この理由は、転廠取引は、元々、「貨物の状態を変えないことを前提に、特例として、本来輸出入すべき貨物を、中国内で直送させる」ものであるため、「価格も変えてはいけない」という理屈です。
ただ、この場合、図1では、外国企業Aは、販売段階では利益が取れず、外国企業Bは、調達段階で利益が取れないため、調達部門と販売部門が独立採算となっている場合など、社内で問題が生じます。また、AとBの間に、商社が介入している場合は、同一価格で売買する必要が生じますので、更に、大きな問題となります。
この様な場合の対応策に使われるのが、保税開発区游です。
元々、広東省の加工貿易企業が、加工貿易製品を中国内で販売したい場合、貨物を貨物車で香港に輸送し(輸出が成立)、同じ貨物車で広東省に戻る(輸入が成立)取引が広く行われており、香港游と俗称されていました。
これと同じ行為を、保税開発区で行うのが保税区域游(筆者が付けた俗称)で、香港游と同じ効果が出せます。
尚、保税区域游は、主に、保税物流園区・保税物流中心B型が活用されますが、総合保税区でも可能です。
図5
保税区域游のポイントは以下の通りです。
- 搬入時に輸出通関を行う。
進料加工企業の場合は、増値税の輸出還付が可能。
- 区内では、外国企業が所有権を持てる。
また、区内での外国企業間の所有権移転が可能で、外国企業が利益を取れる。
- 搬出時に輸入通関を行う。
輸入通関は必要であるが、通関当事者は加工貿易企業であるため、保税輸入が可能。
価格設定に付いては、搬出価格(輸入通関価格)≧搬入価格(輸出通関価格)であれば、原則として税関が受理するため、外国企業が利益を確保できます。
また、保税区域内での外国企業間の暫定保管貨物の売買は、増値税の課税対象外であり、企業所得税に関しても、PEなければ課税なしの原則により課税されません。
水野コンサルタンシーグループ代表 水野真澄