広東省における来料加工廠の外資企業転換の手続 執筆日:2010年7月7日
2016-10-27執筆日:2010 年 7 月 7 日
広東省における来料加工廠の外資企業転換の手続
Ⅰ.操業を止めない来料加工廠の外資企業転換に付いて
1.来料加工廠の外資企業転換に関するガイドライン 2008 年より、来料加工廠形態を制限し、外資企業に転換する動きが強まってきています。 ただ、来料加工廠の外資企業転換は、「来料加工廠の閉鎖」、「外資企業の新設」、「人員・設備の移管」という手続が必要となりますので、「工場の移転を行なわずに組織変更ができるか」、更には、「操業を停止せずに組織変更ができるか」という点が、重要な問題となります。
また、来料加工廠から外資企業に組織変更する場合、殆どの企業は加工貿易を継続しますので、操業を止めずに形態転換を行なう為には、手続上、幾つかの問題が存在します。 例を挙げれば、以下の様なポイントです。 ● 無償提供設備が、保税・免税状態を継続したまま新設法人に移管できるか。 ● 来料加工廠の設備・人員を移管する前に、新設法人が生産能力証明・加工貿易認可が取得できるか。 ● 来料加工廠の保税品(原材料・仕掛品・製品)が、新設法人に保税のまま移管できるか。
この様な問題に対して、初めて公式な形で指針が打ち出されたのが、広東省政府より公布された、「来料加工企業が所在地で操業を停止せずに形態転換を行う事に関するガイドライン(粤外経貿加字[2008]7 号)」です。 このガイドラインでは、来料加工廠の外資企業転換を奨励する一環として、転換手続の簡素化を実施し、工場の操業を止めずに組織変更を行う事を認めています。 また、この通知は、以下の政府機関(組織変更手続に関連する政府機関)が連盟で出したものであり、円滑な組織変更を、政府機関が正式にサポートする姿勢がうかがえます。 ● 広東省対外貿易経済合作庁、広東省公安庁、広東省財政庁、広東省労働社会保障庁、 広東省国家税務局、広東省地方税務局、広東省環境保護局、広東省工商行政管理局、 広東省検験検疫局、税関総署広東文署、国家外管理局広東省分極
2.ガイドラインの概要 ガイドラインが定める、組織変更手続の概要は以下の通りです。
① 組織変更の定義と手続 同ガイドラインが適用されるのは、法人格を持たない来料加工廠が、所在地を変更せずに外商投資企業に転換し、加工貿易業務を継続する場合であると定義されています。
また、手続に付いては、以下の通り規定されています。 1)来料加工協議を締結した各契約者と終止協議を締結 関係部門:対外経済貿易主管部門 2)外資企業を設立申請・登記 関係部門:対外経済貿易主管部門・税関・工商行政管理局・外貨管理局・税務局・ 財政局・検験検疫局・環境保護局・消防局・労働局等) 3)来料加工廠の無償提供説部の処分・加工貿易に関する核銷 関係部門:対外経済貿易主管部門・税関 4)来料加工廠の登記抹消 関係部門:対外経済貿易主管部門・税関・工商行政管理局・外貨管理局・税務局・ 財政局・検験検疫局・環境保護局・消防局・労働局等
② 組織変更の制限期間 組織変更は、6 ヶ月以内に実施する事が求められています。 具体的には、新会社の設立認可の日から、6 ヶ月以内に来料加工廠の閉鎖手続を完了する事が求められています。 但し、実際には、6 ヶ月で作業を終了させる事は極めて困難で、通常は、延長申請を行い、数カ月単位の延長を行います。 また、この形態の組織変更を行う場合には、外経貿部門が発給する新会社の設立認可書類に、組織変更前の来料加工廠の名称(商号)が明記される事が規定されていますが、これも、実際には同一商号の使用は認められず、新しい名称を登記する事となります。
③ 無償提供設備の扱い ガイドラインでは、来料加工廠の無償提供設備の現物出資を認めています。 但し、来料加工廠運営が盛んな東莞では、監督期間内(輸入 5 年未満)の無償提供設備のみを現物出資対象とする等のローカルルールを設定しています。 尚、現物出資による所有権の移転を行った場合には、税関監督期間は、当初の輸入から起算します(来料加工廠での使用期間を含みます)。
④ 保税品・無償提供設備の移管期限 新会社の税関登記完了後、原則として 3 ヶ月以内に来料加工廠の核銷(保税品の消し込み照合と手冊の抹消)、組織閉鎖、保税品・設備の移管手続きを行う事となります。
⑤ 生産能力証明等の扱い 組織変更前後で、経営範囲・企業規模・工場の構造等に大きな変化が無い限りにおいては、来料加工廠の生産能力証明、環境・消防証明は、来料加工廠で取得したものを継続して使用する事ができます。
Ⅱ.転換手続フローチャート
来料加工廠の外資企業転換の作業は、以下の通りとなります。 フローチャートに記載された時間を合計すると、15 ~ 16 ヶ月程度となります。 但し、実際には、転換に伴い、貿易会社(発展公司)・地方政府・不動産所有者との交渉が必要となりますので、これを全て加えると、1 年半程度の作業となります。 尚、広東省のガイドラインでは、来料加工廠と新設外資企業の併存期間は 6 ヶ月、来料手冊と進料手冊の併存は 3 ヶ月と規定していますが、実際には、その期間内での作業終了は困難です。 ただし、この状況は、政府機関でも認知されている為、作業が終了できない場合は、来料手冊の延長は通常可能ですので、あまり神経質になる必要はありません。
① 新設外資企業の営業許可証取得(約 2.5 ヶ月) ・ 社名調査(工商行政管理局) 3 日 ・ 社名登記(工商行政管理局) 1 日 ・ 環境評価報告変更(環境保護局)30 ~ 45 日 ・ 外資転換許可の取得(商務主管部門)25 営業日 ・ 新設法人の営業許可証取得(工商行政管理局) 7 営業日 ↓ ② 新設外資企業の各種登記(約 3 ヶ月) ・ 公用印登録(公安局) 1 営業日 ・ 組織機構コード申請(技術監督局) 3 営業日 ・ 外貨 IC カード・口座開設申請(外貨管理局) 15 営業日 ・ 地税登記(地方税務局) 3 営業日 ・ 銀行口座開設(銀行) 7 営業日 ・ 財政登記(財政局) 7 営業日 ・ 資本金払込(出資者) 7 営業日 ・ 験資報告書作成(公認会計士事務所) 7 営業日 ・ 商検登記(商検局) 5 営業日 ・ 税関登記(税関) 5 営業日 ・ 電子口岸手続(税関) 5 営業日 ↓ ③ 無償提供設備監督解除・移管手続(約 2 ヶ月) ・ 無償提供設備監督解除(商検局) 10 営業日 ・ 無償提供設備財産鑑定証書取得(商検局) 10 営業日 ・ 設備転出申請及び移管手続(税関) 20 営業日 ↓ ④ 新設外資企業の加工貿易許可取得(約 3 ヶ月) ・ 来料加工廠独資転換に関わる転換登録(税関) 30 営業日 ・ 新設独資企業の加工貿易許可取得(商務主管部門) 15 営業日 ・ 加工貿易契約登記(税関) 20 営業日 ↓ ⑤ 余剰原材料・設備の移管手続(約 1 ヶ月) ・ 余剰原材料の移管(税関) 15 営業日 ・ 設備転廠手続(税関) 10 営業日 ↓ ⑥ 来料加工廠抹消手続(約 4 ヶ月) ・ 来料加工協議終了許可取得(商務主管部門) 1 ヶ月 ・ 国税登記抹消(国家税務局) 1 ヶ月 ・ 地税登記抹消(地方税務局) 1 ヶ月 ・ 税関登記抹消(税関) 20 営業日 ・ 商検登記抹消(商検局) 10 営業日 ・ 銀行口座閉鎖(銀行) 5 営業日 ・ 財政登記抹消(財政局)1 営業日 ・ 営業許可証抹消(工商行政管理局) 1 営業日 ・ 企業組織認識番号抹消(技術監督局)1 営業日
注: 国税・地税登記抹消時には、税務調査が行われる為、期間の特定はできません。 上記の期間は、飽くまでも参考です(実務を見ると、国税・地税登記抹消の合計で、1 年以上を要する事例も有ります)。
Ⅲ.無償提供設備の移管
1.無償提供設備の移管 来料加工廠の外資企業転換に際して、無償提供設備の現物出資は、非常に重要なポイントとなります。 無償提供設備は、所有権が出資者である外国企業(主に、香港企業)に留保されていますので、外資企業転換に際しては、新設外資企業と外国企業間で資産を譲渡する必要があります。この際に、手続を最も合理的に進める事ができるのが現物出資です。 無償提供設備に関する移管方法を選択し、各々の方法における問題点を、以下、解説します。
① 現物出資 現物出資とは、外国企業(来料加工の委託者)が、来料加工廠に対して無償提供している設備により、新設外資企業に対して出資する方法を言います。
外国企業の貸借対照表(移管前) 外国企業の貸借対照表(移管後) ------------------------------------- ------------------------------------- 設備機械 100 | ⇒ 出資金 100 |
新設外資企業の貸借対照表
設備機械 100 | 資本金 100
現物出資形態のメリットは、以下の通りです。 1)中国内にある設備(無償提供設備)を、そのまま新会社に対する出資に切り替える ので、資金の移動なく、設備の移管を実施できる。 2)無償提供設備は、監督期間満了前(輸入後 5 年未満)に譲渡すると、輸入段階の関 税・増値税の一部(5 年未経過部分)を納付する必要がある。 但し、現物出資を行えば、新設外資企業が奨励分類企業の場合(免税輸入枠がある 場合)は、設備転廠方式により、保税・保税形態での移管が可能となる。 また、移管先が非奨励分類企業でも、2011 年 6 月末までに現物出資申請を行った 場合、やはり、税金の追納は免除される。
② 国内処分 国内処分方式とは、無償提供設備の監督解除を行った上で、新設外資企業に譲渡する方式です。 この方式を採用する場合、対象となるのが監督期間内の設備であれば、監督解除時点で、輸入段階の関税・増値税の一部(5 年未経過部分)を納付する必要があります。 また、新設外資企業に譲渡した場合、新設外資企業から外国企業に対して、購入代金を支払う必要がありますが、この対外送金許可が、中国の外貨管理では認められません。 よって、無償譲渡せざるを得ず、香港法人側で残っている設備機械の簿価を落とす(見合いの処分損が発生する)必要が生じます。
③ 無償提供設備の継続 来料加工廠に対して無償提供している設備を、新設法人に対して継続して無償貸与する方法です。 新設外資企業が、加工貿易許可を取得すれば、理論的にはこの様な貸与先の変更は可能ですが、深圳・東莞の運用では、外資企業の場合に対して、無償提供設備の受入れを認めていません。 結果として、この方法は、現時点では採用できません。
④ 輸出後再輸入 これは、無償提供設備を輸出して、新設法人が再度輸入する方法です。 但し、この方法は、物理的に設備を輸出入する必要がある事、更に、再輸入時に、中古品輸入許可を取得する必要がある事により、一定の期間、物流コスト、繁雑な手続が必要となりますし、設備の種類によっては、再輸入ができない場合もあります。 外資企業転換の法整備が進められる前は、現物出資が認められる明確な根拠が無かった事により、已む無くこの方法で設備を移管する例がありましたが、現時点では、この方法が採用される事は、殆どありません。
2.現物出資に関する優遇措置 「来料加工廠の法人転換に関する設備輸入税収に関する問題の通知(財関税[2009]48 号)」、及び、「税関総署公告[2009]62 号」により、2011 年 6 月末までに、外資企業転換に際しての現物出資申請を行う場合、一定の税務優遇が認められます。 これは、監督期間満了前(5 年未経過)の設備に関しても、輸入段階の関税・増値税の課税の免除を認めるもので、具体的な内容は以下の通りです。
① 優遇措置の内容 2011 年 6 月末までに現物出資申請を行う場合は、(輸入後 5 年未経過であっても、また、新設外資企業が非奨励分類であっても)輸入段階の関税・増値税は免除されます。 但し、この免税措置の対象となるのは、増値税の免税輸入措置打ち切り前に輸入した事により、輸入時に増値税が課税されていない無償提供設備(2008 年末前に加工貿易登録し、且つ、2009 年 6 月末までに輸入通関を行った無償提供設備)に限定されます。 この条件を満たさない場合、転換後の外資企業が奨励分類に該当する場合は、関税については免税措置が適用されますが、非奨励分類の場合は関税の追納が必要となります。 因みに、この様な無償提供設備(2008 年末前に加工貿易登録し、且つ、2009 年 6 月末までに輸入通関を行うという条件を満たさないもの)は、免税輸入制度の変更(財政部・税関総署・国家税務総局公告 2008 年第 43 号)により、輸入時に既に増値税の課税を受けています。
② 優遇措置適用手続 現物出資時に、関税・増値税の優遇措置を申請する場合には、以下の書類を提出して申請する必要があります。 ● 来料加工廠の外資企業転換の批准文書、及び対象となる無償提供設備のリスト ● 外資企業の設立許可と営業許可の写し ● 無償提供設備に関連する来料加工廠の手冊、及び、輸入時の輸入報関単原本 ● その他 以上の通り、現物出資申請の際には、「新設外資企業の設立許可と営業許可証」の提示が求められます。 よって、Ⅱ のフローチャートの ① の段階が終了した時点、つまり、標準的な作業スケジュールでは、設立手続開始より 2.5 ヶ月程度経過した時点で可能となります。 つまり、優遇措置適用の為には、2011 年 6 月末以前に、Ⅱ‐① の作業を終了させる必要があり、2011 年の初旬には、転換作業を開始する必要があります。
3.現物出資の手続 来料加工の無償提供設備を現物出資する為には、税関監督解除、資産評価、納税手続(必要に応じて)というステップが必要となります。 また、無償提供設備御現物出資は、地域により対応が異なっており、特に、東莞市の場合は、監督期間満了前の設備は現物出資を認めるものの、満了後の設備に付いては現物出資を認めないという、特殊な対応をしています。
① 監督解除 無償提供設備は、「外国企業が中国内で保有する保税設備」であり、用途は、加工貿易企業内での使用に限定されています。 これを、中国内で譲渡する為には、税関の許可を取得した上で、税関リストから削除する必要がありますが、この手続を、監督解除と呼称します。 現物出資であれ、国内売却であれ、新設外資企業に所有権を変更する行為は、国内処分に該当しますので、事前に、監督解除を行う必要があります。
無償提供設備の税関監督期間は、5 年間と定められています。 よって、輸入より 5 年経過した段階で監督解除を行う場合は、輸入段階の関税・増値税を追納する必要はありませんが、5 年以内に国内処分する場合は、一部を追納する必要があります。 追納が必要となる場合の税額計算は、「加工貿易において輸入する設備に関する通知(税関総署・対外貿易経済合作部[1998]外経貿政発 383 号)」において、監督解除時点で設備の償却後の価額に対して納税すると定められています。
ここでいう償却とは、会計・税務上の減価償却ではなく、使用年限を指します。 つまり、税関監督期間は 5 年ですので、輸入後の経過期間と 5 年の差額(未経過期間)が、償却後の価額とされます。 仮に、3 年間経過した場合は、輸入段階の設備金額に、(5-3 年)/5 年を乗じる事になります。 また、実際の計算は月単位で行いますが、1 ヶ月に満たない場合は、15 日間を超過した場合は 1 ヶ月として計算し、これに満たない場合は月を切り捨てます。 ・納税基礎額= 税関が査定する輸入時の設備価額 x 設備の輸入後の経過月数 ÷(5 年x 12)
② 現物出資・国内処分のステップ 無償提供設備の監督解除と、現物出資・国内処分の手続は、「加工貿易取引において外国企業が提供する無償提供設備の税関監督管理の解除問題を更に明確にする事に関する通知:税関総署・対外貿易経済合作部・国家質量検験検疫局・署法発[2001]420 号)」に、以下の通り定められています。 因みに、現物出資に際しては、商検部門での資産鑑定評価が必要となります。 この評価方法は、「外商投資財産鑑定管理弁法(国検鍳聯[1994]第 78 号)」には、市場価値、原価、収益還元価値、その他の方法で鑑定する事が定められています。 但し、中古設備の場合、時価の把握、収益還元価値の算定には困難が伴う為、通常は、購入時の価格に、中国の会計基準に基づく減価償却を適用した上で、資産価値の判定が行われます。
・ 商検局での中古設備登録申請 ↓ ・ 税関での監督管理解除申請 ↓ ・ 輸入許可証の取得 ↓ ・ 商検局での資産評価 ↓ ・ 輸入段階の関税・増値税の納付(5 年未経過の場合) ↓ ・ 税務局での納税(国内譲渡時の課税) ↓ ・ 現物出資・設備国内処分
監督解除後、設備機械を譲渡するのではなく、工場内で継続使用する場合は、「外国企業が提供した無償提供設備の監督解除問題を更に明確にする通知(署法発[2002]348 号)」により、1998 年 1 月 1 日以降に輸入された無償提供設備であれば、「機電産品輸入許可証」と「検験検疫証」の取得手続が免除されます。 よって、中古輸入が禁止される設備でも、工場内の継続使用であれば、工場内使用を前提とした監督解除が可能となります。 「来料加工廠の外資企業転換」の場合は、通常、工場内の継続使用として認められます。
③ 東莞・深圳の実例 「来料加工廠の法人転換に関する設備輸入税収に関する問題の通知(財関税[2009]48 号)」・「税関総署公告[2009]62 号」では、無償提供設備の現物出資を前提とした優遇措置の提供を定めています。 ただ、無償提供設備の現物出資の可否は、ローカルルールにより大きく左右されます。 広東省で来料加工が盛んな地域として、東莞市と深圳市が挙げられますが、深圳市では、過去より現物出資を認めているのに対して、東莞市は現物出資を認めない方針を取っていました。 実際、「来料外資転換に関わる東莞の通知(東外経貿[2009]108 号)」は、来料加工廠の外資企業転換に際しての無償提供設備の移管は、国内処分方式を採用する事を規定しています。 但し、財関税[2009]48 号・税関総署公告[2009]62 号との整合性を取る為、監督期間未経過の資産に関しては、現物出資を認める方向に変わってきています。 結果として、東莞市では、輸入後 5 年経過後の設備に付いては、現物出資不可(国内処分方式)、5 年未経過の資産に付いては、現物出資可能という運用が行われています。
4.国内処分の手続 無償提供設備の現物出資が認められない場合、国内処分(売却)方式で移管を行う必要があります。 無償提供設備の所有権は外国企業に留保されている為、売却代金は、新設外資企業(移転先)から外国企業(移転元)に対して支払う必要がありますが、外貨管理上、この対外送金は認められません。 これは、設備の輸入通関証明に無償輸入と明記されているためです。 結果として、現物出資が認められない場合、資産購入代金の決済ができなくなり、以下の問題が生じます。 1)香港企業として、設備譲渡代金が回収できず、設備簿価を損失として計上せざるを 得なくなる。 2)来料加工廠から新設外資企業に無償譲渡を行う場合、新設外資企業側で、設備を固 定資産計上できなくなる。
この問題に対して、「東莞市政府工作会議議事録(東莞市人民政府弁公室 2019 年 19 号)」は、以下の対応を規定しています。 1)増値税の課税対象とならない譲渡に関しては、資産鑑定機関(商検部門)が価額を算定し、相手勘定を資本準備金として処理する。 2)譲渡価額が無償提供設備の通関価格を超えなければ、企業所得税は課税しない。
上記に基づく処理は、以下の通りとなります。
外国企業の貸借対照表(移管前) 外国企業の貸借対照表(移管後) ------------------------------------- ------------------------------------- 設備機械 100 | ⇒ 出資金 100 |
新設外資企業の貸借対照表
設備機械 100 |資本金準備金 100
これにより、香港企業側では設備機械の簿価を出資金に振り替える事ができ、一方、新設現地法人側でも、商権部門の資産鑑定評価価格を前提に国内譲渡に関わる増値税を納税し、その発票を証憑として、固定資産計上ができる事となります。
尚、新設外資企業側では、設備機械の無償譲渡を受けた訳であり、受贈益として企業所得税の納税を受ける可能性がありますが、上記2)を前提とすれば、鑑定価格が、輸入時の参考価格(無償提供設備のリストに記載された参考時価)を上回らない限り、譲渡に関わる企業所得税課税は不要となります。 但し、これはあくまでも東莞市の規定ですので、地域によって対応の相違が予想されます。処分時の事前確認が必要な項目と言えます。
5.無償提供設備の移管に際しての課税 無償提供設備を監督解除し、現物出資・国内処分する場合の課税に付いては、「監督解除に際して、輸入段階の関税・増値税の追納」と、「現物出資・国内譲渡時の増値税」の二種類を検討する必要があります。 ① 輸入段階課税 輸入段階の関税・増値税に付いては、当該無償提供設備が輸入後 5 年以上経過していれば納税不要ですが、5 年未経過の場合は、未経過部分に対して追納が必要となります。詳細は、Ⅲ-3-① を参照下さい。 但し、転換後の外資企業が奨励分類の場合は、設備転廠方式により、輸入段階の関税・増値税の追納は免除されますし、非奨励分類の場合でも、2011 年 6 月末までに、現物出資申請を行う場合は、「財関税[2009]48 号」・「税関総署公告[2009]62 号」の規定により、課税が免除されます。 詳細は、Ⅲ-2を参照下さい。
② 国内譲渡段階 現物出資であれ、国内処分(売却)であれ、設備の所有権を移転する場合は、増値税の納税義務が発生します。 国内譲渡に際しての増値税の課税基準を定めたものは、「一部の貨物に増値税の低税率と簡易方法を適用して増値税の徴税を行う政策の通知(財税[2009]9 号)」であり、ここでは、資産の取得時期に応じて、以下の対応を規定しています。 ・ 取得時期が 2008 年 12 月 31 日以前の場合(増値税暫定条例の改定前に取得した資産で、仕入控除の適用を受けていない場合)は、国内譲渡に際して 2%の税率で課税。 但し、取得側では増値税の仕入控除は受けられない。 ・ 取得時期が 2009 年 1 月 1 日以降の場合(仕入控除適用済の場合)、国内譲渡に際して 17%の税率で課税。取得側では増値税の仕入控除の適用可能。
「東莞市の来料加工企業の操業を止めない三資企業転換に関する作業の補足通知(東外経貿[2009]108 号)」では、無償提供設備の輸入時期(増値税暫定条例改定前後)に応じて、上記に従い課税する事を規定しています。 因みに、同通知では、全ての資産・負債・人員を移管する場合は、「企業の全部の資産の譲渡に関しては増値税を徴税しない問題の回答(国税函[2002]420 号)」に従い、資産移管時の増値税を徴税しない事を定めていますが、東莞市対外経済貿易部門にヒアリングした結果、この様な増値税免除の適用事例は極めて少ないようです。
Ⅳ.資産と人員の移管
来料加工廠の外資企業転換に際しては、従業員の移管が必要となります。 この際に、経済補償金の支払義務があるか否かに付いては、労働契約法の規定に従い判断されます。 「中華人民共和国労働契約法実施条例(国務院令 2008 年第 535 号)」・第 10 条では、雇用者側の事情で、労働者の雇用環境を変更する場合、「一旦、経済補償金を支払い、勤続実績を白紙に戻してから再雇用する方法」と、「経済補償金を支払わずに、旧組織での勤続年数を引き継ぐ方法」の双方を認めています。 双方の方法の内、原則となるのは後者であり、外資企業転換時の人員の移管に際しては、勤続年数を引き継ぐ方法で従業員を移籍させる事ができます。 因みに、当該規定の適用は、旧組織と新組織の間に資本関係がある事が原則となります。 来料加工廠は、外国企業(新設外資企業の出資者)とは資本関係はありません、実質的に、外国企業の現地法人に準じるという点が広東省では認知されているため、上記規定の適用が認められるものです。
因みに、全従業員を移管せず、組織変更に際して大量の人員削減を行う場合(20 名以上、若しくは、20 名以内であっても全従業員の 10%以上の削減)は、労働契約法第 41 条の規定に基づき、労働組合(工会)、若しくは全従業員に対する状況説明と、労働行政部門に対する人員削減案の提出が必要となります。
Ⅴ.来料加工廠閉鎖時の問題点
広東省における来料加工廠運営は、第一章で解説した通り、多分に変則的、不透明な要素を含んでいます。 組織変更に際して、過去の運営に関するしわ寄せ(地方政府の利権の継続、税金の追納)が生じるケースが少なくありません。 具体的には以下の様な内容です。 ① 来料加工廠が受領する加工賃に付いては、商務代理となった貿易会社(経済発展公司等)が、10 ~ 30%の諸費用徴収をするのが一般的です。 外資企業に転換すれば、外貨口座の開設・貿易権の取得が可能なため、貿易会社としては、諸費用の徴収を継続する理由は無くなります。 但し、組織変更に当たり、過去の費用徴収に相当する金額を、家賃に上乗せする、若しくは、管理費などの名目で徴収する事を要求されています。 ② 工場を賃借している場合、工場の賃貸料に対して営業税が納付されていないケースが 少なくありません。 この営業税の納税義務は、本来不動産所有者が負うべきものですが、この未納付税額 に付いて、一定期間(通常 3 年)、企業側が納付を要求されています。
その他の注意点としては、来料加工廠は、外国企業とは出資関係がありませんので、人民元の剰余金があっても外国企業に清算配当の形で還元する事ができません。 よって、極力、人民元資金が余らない様、コントロールする必要があります。
新設外資企業の資本金に付いては、「会社法(首席令[2005]第 42 号)」では、30%以上を現金出資とする事が要請されていますが、来料加工廠の外資企業転換に際しては、この基準は免除されています。 また、東莞市では、生産型企業を設立する場合は、US$ 1 百万以上の資本金を要求するローカルルールがありますが、やはり、独資転換に関しては、この基準は免除されています。