代理人PE 執筆日:2022年3月30日
2022-03-30執筆日:2022 年 3 月 30 日
代理人 PE
PE(Permanent Establishment:恒久的施設)は、一言でいえば、外国企業の国内営業拠点です。つまり、「支店などの拠点(分枝機構)がある」。「そこが営業活動をしている」という双方の条件が整うと、PE として認定されます。
ただ、実際の拠点が無いにも拘らず、税務上では、有ると見なされ、PE 認定されることが有り、これを見なし PE と呼称します。代理人 PE はその一種です。
中国では、あまり認定事例はない形態ですが、香港と中国本土の実質的な租税協定の第 5 議定書が 2019 年に取り交わされており、認定要件が厳しくなっています。
これは、日本企業を直接縛るものではありませんし、現時点で具体的な影響もありませんが、今後、何らかの実務上解釈上影響があるかもしれませんので、概要を解説します。
1.PE の概念と代理人 PE
PE とは、外国企業の営業拠点を指す税務用語です。なぜ、この概念が重要かというと、相手国(例えば中国)に PE が有るか否かで、外国企業(例えば日本企業)の事業所得(対中輸出などで得た所得)が、中国において、企業所得税の課税対象になるか否かが違ってくるからです。
PE は、外国企業自身の拠点ですので、支店や工事現場などが該当し、子会社(中国の現地法人)は、PE には該当しません。単なる、出資者と被出資者の関係に過ぎないためです。
但し、一定の要件を満たすと、子会社であっても、更には、出資関係がない外部組織であっても、PE 認定を受ける場合があります。これが、代理人 PE と呼ばれるものです。
2.代理人 PE の要件
代理人 PE の要件は、日中租税条約第 5 条には、以下の通り規定されています。
<日中租税条約に基づく代理人 PE の要件>
一方の締約国内(中国)において、他方の締約国の企業(日本企業)に代わって行動する者が、次のいずれかの活動を行う場合(但し、独立の地位を有する代理人は除く)。
(a) 中国内で、日本企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使すること。
(b) 中国内において、専ら、又は主として、当該日本企業のため、又は当該日本企業のグループ企業のために、反復して注文を取得すること。
つまり、例えば、中国の子会社が、日本企業の名において署名する権限(代理署名権)を、恒常的に行使する場合、代理人 PE に該当するとみなされ得るので避けるべきです。
次に、日中租税条約には、(b)の通り、注文取得代理人が規定されています。
ただ、中国の子会社・関連企業が、日本企業の注文取得行為をするだけで、代理人 PE 認定されるかというと、そういう訳ではありません。代理人 PE の趣旨は、傀儡的な代理人(経済的・法的な独立性を有しておらず、当該日本企業に依存している代理人)を、形式ではなく、実質面の考慮から、日本企業の拠点に準じて扱うことです。
よって、当該子会社が、商業行為として(適正な報酬を得ることを前提に、第三者的距離間で)、コミッション代理行為を行う場合は、独立性を棄損している訳ではなく、代理人 PE には該当しないと判断されます。
3.香港と中国本土の議定書
代理人 PE 認定に関して、日中租税条約では変更がありませんが、中国本土と香港の実質的な租税条約(内地と香港特別行政区の二重課税回避と脱税防止の調整)では、第 5 議定書が取り交わされ、代理人 PE 要件が厳しくなっています。
ここでは、代理署名だけではなく、「契約締結過程において、重要な役割を果たす場合」も、代理人 PE となり得ることが規定されました。重要な機能とは、役務提供の委託者が、自分自身で契約書に署名するものの、代理人が決定した内容に、実質的な修正を行わない場合を指します。
また、独立性の問題に関しても、当該子会社が、企業グループ内での活動(注文取得活動等)しか行っていない場合は、独立性を有しないものと判断されることが、併せて規定されています。日本企業に直接関係するものではありませんが、代理人 PE 判定の実務において、参考にされる懸念がありますので、この点は、注意すべきと思われます。