香港と中国本土の租税協定 掲載日:2008年9月3日
2014-10-28掲載日:2008 年 9 月 3 日
香港と中国本土の租税協定
1.租税協定の内容
香港は中国の一部ですが、一国二制度の原則の下、異なった税制が採用されていますので、両地域を跨いでビジネスを行う場合、二重課税が発生する可能性があります。
この様な問題を調整する為に、1998 年に現在の租税協定が締結されました。
但し、旧租税協定は、全七条から構成される簡単なもので、通常の租税条約(中国が他国と結ぶ租税条約)に比べると、明確にされていない重要事項が多くありました。
● 旧租税条約の内容
第一条(恒久的施設と事業所得の定義)、第二条(国際運輸所得)、第三条(個人の役務収入と 183 日ルールの適用)、第四条(二重課税排除の原則)、第五条(問題が生じた場合の相互協議)、第六条(人的範囲と対象税目)、第七条(定義)
1998 年当時に(旧)租税協定が締結された際の意義が、以下の 4 点に集約されたと言ってよいでしょう。
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恒久的施設の定義が明確にされた。
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香港・中国本土間でも給与所得に対して 183 日ルールを適用する事が規定された。
これにより、暦年で相手地域の滞在が 183 日を超えない場合は、相手地域での個人所得税の納税が不要となった(但し、相手地域で給与場支払われている場合、相手地域の機構が給与を負担している場合はこの限りでない)。
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国際運輸所得は、居住地国のみで課税される事が明確にされた。
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二重課税排除の原則が取り決められた。
香港は、国内源泉所得課税方式(オフショア所得非課税)である為、原則として外国税額控除の制度は無いが、中国本土で課税された事により、二重課税が生じた場合は、外国税額控除が適用される事が取り決められた。
2.現在の租税協定
現在の租税協定は、2006 年に調印され、2007 年(中国本土は 1 月、香港は 4 月)より施行されています。
現在の租税協定は、以下の通り全 27 条から構成されるものであり、旧租税条約に比較すると、格段に完成度が高くなっています。
● 現在の租税協定の内容
第一条(適用範囲)、第二条(対象税目)、第三条(一般定義)、第四条(居住者の定義)、第五条(恒久的施設)、第六条(不動産所得)、第七条(事業所得)、第八条(国際運輸)、第九条(関連企業)、第十条(配当)、第十一条(利子)、第十二条(使用料)、第十三条(譲渡所得)、第十四条(賃金・給与)、第十五条(取締役報酬)、第十六条(芸術家・運動選手)、第十七条(退職金)、第十八条(政府職員)、第十九条(学生)、第二十条(その他の所得)、第二十一条(二重課税排除の方法)、第二十二条(無差別的待遇)、第二十三条(相互協議)、第二十四条(情報交換)、第二十五条(その他の規則)、第二十六条(発効)、第二十七条(終了)
3.現在の租税協定の意義
2006 年の租税協定改訂の意義は、「規定範囲の拡大と透明性の向上」、「投資所得に対する軽減税率の導入」、「譲渡所得に対する課税権の明確化」と言った内容が主要なものとして挙げられます。
この改定は、中国本土でビジネスを行う香港企業が多くの恩恵を受けるものですので、(中国本土でビジネスを行う)香港居住者の立場に立って、以下、解説を行います。
- 配当・利子・使用料に対する軽減税率の適用
新しい協定による源泉徴収税率は以下の通りとなっています。
* 配 当:10%(但し、25%以上の持分を所有している場合は5%)
* 利 子:7%
* 使用料:7%
中国本土の税制(外資企業所得税法)では、外商投資企業(香港を含む外国出資者の持分が 25%以上となる企業)が実施する配当に付いては、源泉徴収が免除されています。よって、軽減税率の設定は、配当に関しては直接的な影響を与えるものではありません。
但し、利子・利用料等に関しては、10%の源泉徴収税率が規定されていますので(外資企業所得税法に定める 20%の税率を、国税発[2000]37 号により軽減)、7%の軽減税率の設定は、香港企業に対して、直接的な課税軽減効果が認められます。
- 譲渡所得
譲渡所得に関しては、主に、以下の課税権の取り決めが行われています。
* 香港企業が、中国本土の不動産を譲渡した場合には、中国本土に一義的な課税権が認められます。
* 香港企業が、中国本土の恒久的施設に帰属する資産を譲渡した場合には、中国本土に一義的な課税権が与えられます。
* 香港企業が中国企業の株式を売却した場合には、原則として、香港のみに課税権が認められます。但し、譲渡対象株式を発行している会社の主要部分(50%以上)が、中国本土の不動産で構成されている場合には、中国本土に課税権が与えられます。
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給与・役員報酬・退職金
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賃金・給与に付いては、183 日ルールが適用されます。
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取締役報酬に付いては、(取締役を務める)会社の所在地に課税権が与えられます。
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退職金に付いては、居住地域に課税権が与えられます。
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尚、この改定により、情報交換の規定が織り込まれ、課税権の調整、脱税防止の為の情報交換を、両地域の税務当局が実施する事が明記されました。