外債・マクロプルーデンス方式の変更 執筆日:2020年4月1日
2020-05-30外債・マクロプルーデンス方式の変更
中国における外資企業の対外借入方法は、投注差方式とマクロプルーデンス方式の選択適用となります(内資企業の場合は、マクロプルーデンス方式のみ可能)。
こちうち、マクロプルーデンス方式が、「全範囲クロスボーダー融資マクロプルーデンス政策因数の調整に関する通知(銀発[2020]64 号)、以下、64 号通知」により変更(規制緩和)されています。64 号通知による規制緩和について、以下、解説します。
1.64 号通知の内容
マクロプルーデンス方式による対外借入は、「全範囲クロスボーダー融資マクロプルーデンス管理の実施に関する通知(銀発[2016]132 号)・失効」により、2016 年 5 月 3 日より開始され、「 全範囲クロスボーダー融資マクロプルーデンス管理実施に関する通知(銀発[2017]9 号)、以下、2017 年 9 号通知」により、2017 年 1 月 13 日より規制緩和(借入枠の拡大)されました。
① 2017 年 9 号通知に基づく借入枠
2017 年 9 号通知では、対外借入枠を以下の通り規定しています。
● クロスボーダー(CB)融資リスク加重残高上限(対外借入可能額)=
資本或いは純資産 ×CB 融資レバレッジ率 × マクロプルーデンス調節係数
また、計算式における使用計数は、以下の通り規定されています。
1)資本、或いは純資産
一般企業(非金融企業)は、純資産(前年度の会計監査報告書に記載された自己資本の金額)を使用する。
2)CB 融資レバレッジ率
一般企業は 2、非銀行金融機関は 1、銀行系金融機関は 0.8 を使用する。
因みに、既に失効している銀発[2016]132 号では、一般企業の計数は 1 でしたが、2017 年 9 号通知により、2 に修正されました。
3)マクロプルーデンス調節係数
1 を使用する。
② 64 号通知
今回施行された、64 号通知は、マクロプルーデンス調整計数を、1 から 1.25 に変更することを規定しています。
結果として、一般企業は、「自己資本x 2(CB 融資レバレッジ率)x 1.25(マクロプルーデンス調整計数)」の借入枠が適用されますので、前年度の会計監査報告書の自己資本の 2.5 倍が借入枠となります。
尚、一般企業の借入枠は、自己資本金額(2016 年 5 月 3 日~ 2017 年 1 月 12 日)⇒ 自己資本金額の 2 倍(2017 年 1 月 13 日~ 2020 年 3 月 10 日)⇒ 自己資本金額の 2.5 倍(2020 年 3 月 11 日~)と変更されています。
これは、企業の資金調達の枠を広げるための制度変更によるものであり、特に、今回は、新型肺炎による資金調達の柔軟性拡大を目的としています。
2.対外借入の注意点 ****
① 対外借入の選択肢
外資企業の場合、投注差方式とマクロプルーデンス方式の選択適用が可能です。但し、2016 年 5 月 3 日以降、最初の対外借入時に方法を選択する必要があり、選択後は継続適用が原則となります。
内資企業の場合は、マクロプルーデンス方式による対外借入のみが可能です。
② マクロプルーデンス方式による借入額
対外借入枠が、自己資本の 2.5 倍までとなる事は、上述の通りですが、これは、借入額をそのまま使用するのではなく、以下の公式に基づき、一定の調整を加えた金額(調整済借入残高)を使用します。
● 調整済借入残高
クロスボーダー人民元・外貨対外借入残高 × 期間リスク調整(注 1)× 類型リスク調整(注 2)+ 外貨対外借入残高 × 為替リスク調整(注 3)
注 1:返済期間 1 年以下の短期借入は 1.5 を乗じ、1 年超の中長期借入は 1 を乗じる。
注 2:オンバランス・オフバランスの類型を指すが、双方 1 に設定されている。
注 3:外貨対外借入残高に 0.5 を乗じた金額を加算する。
注 4:延払輸入に関する買掛金、輸出代金前受金は計数に加算する必要はない。
<計算例>
借入内容(クロスボーダー人民元短期借入 50 万ドル相当、外貨対外借入を短期 40 万ドル、中長期 60 万ドル)の場合は、調整済借入残高は、以下の通りとなります。
調整済借入残高
= 50 万 × 1.5 + 40 万 × 1.5 + 60 万 × 1 +(40 万 + 60 万)× 0.5 = 245 万ドル
※ 実際の管理は人民元を単位とする。
外貨借入金額は引き出し日の為替レート(仲値)に基づき換算する。
つまり、対外借入に関して、中長期借入であれば、通貨に拘わらず期間リスク調整はありませんが、短期借入の場合は、1.5 を乗じる必要が有り、実際の借入額の 1.5 倍の枠を消費します。
また、クロスボーダー人民元借入であれば、為替リスク調整は不要ですが、外貨借入の場合(短期・中長期共に)は、0.5 を乗じた金額を加算する必要が有ります。
この様に、短期借入の場合、外貨による借入の場合は、実際金額以上の枠を消費する事になりますので、注意が必要です。
③ 枠の考え方
マクロプルーデンス方式の場合は、通貨・期間に拘わらず残高管理ですので、返済すれば、枠は復活します。
投注差方式の場合は、外貨による短期借入は残高管理ですが、それ以外(外貨中長期借入、及び、全てのクロスボーダー人民元借入)は累計管理ですので、一旦借り入れると、返済しても枠は戻りません。