オフショア取引(三国間取引)に付いて 掲載日:2016年2月23日

2016-02-23

オフショア取引(三国間取引)に付いて

中国法人(中国の外資企業・内資企業)は、オフショア取引を行う事はできるのでしょうか。また、法律、及び、実務対応はどの様な状況になっているのでしょうか。

オフショア取引は、2012 年 8 月 1 日の貨物代金決済改革(匯発[2012]38 号)により対応可否に変更がありました。つまり、従前は、保税区域の企業しか認められなかったのが、非保税区域の企業でも外貨管理上は対応が認められる様になり、取引事例が増えています。 とは言え、法律解釈・運用上不透明な点が見られる状況で、その意味では、今後の状況変化も有り得ます。 中国法人のオフショア取引に付いて、法律と実務を踏まえて解説します。

1.オフショア取引の対応可否

①  貨物代金決済以前

貨物代金決済改革以前、保税区域の企業だけ、オフショア取引の対応が可能でした。 それまでは核銷制度(通関実績と決済の事前個別照合制度)が採用されていたため、中国での通関を伴わない取引は対外決済も不可でしたが、保税取引が認められる保税区域に関しては、例外的にオフショア取引も認められていたものです。 その場合でも(保税区域の企業がオフショア取引を行う場合でも)、「販売代金を最初に回収した上で、仕入代金を支払う(先受け後払い)」、「販売代金は仕入代金以上の金額である」という制限がありました。よって、相場や為替の関係で、販売価格<仕入価格となった場合や、販売代金が貸し倒れになった場合等は、仕入代金の支払いが認められないという問題がありました。

②  貨物代金決済以降

貨物代金決済により、外貨管理規則上は、保税区域以外の企業(非保税区の企業)でも、オフショア取引が認められる様になりました。 貨物代金決済改革の意義は核銷制度の廃止であり、貨物代金決済時の通関単提示が不要となった事から、非保税区域の企業でも(通関単を取得できない)オフショア取引の決済が可能となったものです。 現在では、オフショア取引の外貨管理規則は、企業の外貨分類に応じて、以下の通りになっています(別途の記載が無い場合は、匯発[2012]38 号に基づく)。

  • 1)A 類企業の場合は、先払い後受け条件・先受け後払い条件の双方が可能。 受払い日の間隔が 90 日超であり、且つ、先受け後払いの受取外貨金額、若しくは、先払い後受けにおける支払外貨金額が US$ 50 万超である場合は、モニタリングシステム(監測系統)で外貨管理局に報告する必要がある。

  • 2)B 類企業の場合は、A 類企業の管理に加え、売買差額が 20%超の取引に付いては外貨管理局での登記が義務付けられる。 尚、先受け後払い条件方式のみが可能であり(匯発[2013]20 号)、更に、受払いの間隔が 90 日超の取引は禁止される。

  • 3)C 類企業は、全ての三国間取引が禁止となる。

2.営業許可管理との関係

以上の通り、外貨管理上は、A 類・B 類企業であれば、非保税区域企業・保税区域企業ともにオフショア取引は可能ですが、営業許可管理上は、不透明な部分が残っています。 オフショア取引は、中国では転口貿易と呼称されますが、この営業範囲が無い企業がオフショア取引を行う事は適切か、という点を、上海市の商務主管部門・工商行政管理局にヒアリングしましたが、「原則論としては必要」という程度で、明確な意見は得られませんでした。 非保税区域の企業が転口貿易の営業許可を取得できるかという点に付き、上海市の商務主管部門に合わせてヒアリングしましたが、保税区域の企業のみ取得可能(非保税区域の企業は取得不可)との回答で、これに基づけば、非保税区域企業のオフショア取引は、(実務上可能で、取引の規制は行われていないものの)営業許可管理規則上、不透明な点がある事になります。

3.オフショア取引の類型

オフショア取引と言っても、幾つかの類型があります。 面白い事に(外貨管理文書には定められていないのですが)、パターンによって、非保税区域企業の対応可否が分かれる、決済条件に制限がつく、という状況が生じています。 オフショア取引の実務上の制限と注意点を、典型的な類型に基づき解説します。

①  境外で貨物が直送される場合

これは典型的なオフショア取引です。 図では、貨物が香港から日本に直送され、これに対して中国企業がインボイススウィッチ形式で売買に関与しています。これは、外貨管理規則上は、保税区域・非保税区域企業共に対応可能であり(非保税区企業の注意点に付いては、「2.営業許可管理との関係」参照)、1.「① 貨物代金決済以降」で解説した通りの対応が受けられます。 尚、この形態の取引では、インボイススウィッチを行う中国企業は、通関が無いにも拘わらず貨物代金決済を行う事になります。但し、貨物代金決済に際して「離岸転手売買(番号 122010)」を選択すれば、モニタリングシステム上の計数(決済と通関の指数)のかい離は調整されます。

②  境外にある貨物の所有権を中国企業が売買する場合

図では、香港に有る貨物を、中国企業が売買しています。国際税務上の問題(Doing Business = PE 課税上のリスクの検証)はさておいて、外貨管理上は、この取引も ① と同様と見なされ、注意点も同じとなります。

尚、香港ではなく、中国の保税区域にある貨物を売買する場合はどうでしょう。 理屈は同様に思えますが、この取引に付いては、保税区域の企業のみ対応可能で、非保税区域の企業は関与できません。 この理由を上海市の外貨管理局にヒアリングしましたが、「一般区の企業は保税区域内の取引に関与できないため、決済もできない」という回答で、法律的な説明は受けられませんでした。 以前、保税区域が関係する取引に関する決済可否と必要証憑を詳細に規定した、保税監督管理区域外貨管理弁法操作規定(匯総発[2007]166 号・失効)・第 14 条-3 に、保税区域内の貨物を一般区の企業が売買する場合の取り扱いが規定されていたものの、実際には認められないという法律と実務の齟齬が有りました。 貨物代金決済改革・保税監督管理区域外貨管理弁法の改定・同操作規定の廃止などを経ても、非保税区域企業の保税区域内取引に付いては、状況が変わっていない事になります。

③  貨物の中国到着前(若しくは、中国からの輸出後)に、洋上で売買が行われる場合

この形態は、貨物の流れだけ見ると、中国の輸出、若しくは輸入ですが(図では中国企業 B が輸出、若しくは、輸入通関)、オフショアで中国企業 A がインボイススウィッチ形式で売買に関与する方法です。 中国企業 A の立場からすると、中国外で取引を行う事となり、オフショア取引となりますが、この取引は、中国企業 A が保税区企業の場合のみ成立します(中国企業 A が非保税区域企業の場合は対応不可)。

により、中国内の外貨決済は禁止されていますので(クロスボーダー人民元の扱いもこれに準じる)、例外的対応が認められる保税区域の企業のみ対応可能となるものです。 また、保税区域の企業が対応する場合も、「先受け後払い」の決済条件のみ対応が認められますが、それは、保税区域企業の貨物代金支払いにあたり、「販売代金の入金実績」提示が求められるためです。この要件は、「旧保税監督管理区域外貨管理弁法操作規定」の規定ですので、操作規定の失効にも拘わらず、運用変化がないのは不思議にも思えますが、同操作規定が、保税区域関連決済の実務に依然として影響を持っているため、この様な状況になっています。

尚、この取引でも、通関が無い状況で貨物代金決済が行われますが、モニタリングシステム上のかい離は、決済にあたり「税関特殊監管区域及び保税監管場所入出境物流貨物(番号 121030)」を使用する事で調整されます。

4.オフショア取引の実務対応

上記の通り、オフショア取引に付いては、不透明な部分、法律と実務のかい離、若しくは、法律に定められていない前提条件の適用が存在しており、ビジネスモデルの組み立てが非常に面倒な状況です。 更に、最近、オフショア取引は取引の真実性の確認が難しい事から、管理の厳格化が求められる傾向にあります。 例えば、「上海自由貿易試験区外貨管理改革試行の一層の推進に関する実施細則(上海匯発[2016]145 号)」では、転口貿易に付いては、証憑(契約書・インボイス・船荷証券・倉荷証券等)確認の厳格化が求められています(同実施細則は、他の自由貿易試験区にも適用拡大)し、それ以外の地域の企業の操作にも影響を及ぼす可能性があります。 今のところ、船荷証券等の提示が可能な取引まで対応を認めない様な管理厳格化は有りません。ただ、例えば、外国の倉庫内で貨物を売買する様な取引(4-② の取引)は、売買条件によっては、真実性の確認要件を満たさないと判断される可能性が有ります。よって、新規の取引を開始するにあたっては、取引先銀行・専門家等に、事前に確認する事が望ましいと言えます。

以上