中国・ベトナムにおけるPE課税、合併と課税について【水野コンサルタンシー中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.98
2024-07-22【中越ビジネスマニュアル 第 98 回】
中国・ベトナムにおけるPE課税について
中国とベトナムのPE認定、PE課税について解説します。
■1.PEとは
(1)PEの定義
PE(Permanent Establishment:恒久的施設)とは、外国企業の営業拠点を指す税務用語です。 なぜこの概念が重要かというと、相手国にPEがあるか否かで、事業所得に対する法人税課税の有無が変わる場合があるためです。
租税条約モデル上、「事業所得については、相手国にPEが無ければ、相手国側で法人税課税を受けない」という原則があります(PEなければ課税なしのルール)。 逆に言えば、「相手国でPE認定を受ければ、それまで課税されていなかった事業所得に対して、課税を受ける可能性」があるわけで、これを理由として、PE認定が懸念されているものです。
(2)PEの種類
PEは外国企業自身の拠点ですので、支店や工事現場などが該当しますが、みなしPEの概念も存在します。 代表的な例はコンサルティングPEや代理人PEです。
コンサルティングPEとは、外国企業(日本企業)が相手国の企業とコンサルティング契約を結び、従業員を派遣して、コンサルティング役務を提供することで受けるPE認定です。 原則として、連続する12カ月以内に、6カ月超の役務提供をすることで、PE認定を受けます。
代理人PEは、かいらいのような代理人(従属的代理人)を起用して営業活動を行っている場合、これを実質的な拠点と見なして、PE認定される形態です。
なお、子会社はPEには該当しません。 出資者と被出資者の関係に過ぎないためです。
■2.中国の場合
中国は、PE認定に対してはそれほど熱心な国ではありません。 とはいえ、過去に以下3種類の認定が実施されています。
(1)駐在員事務所のPE認定
駐在員事務所(常駐代表処)は、情報収集などの補助的活動しか認められないため、本来PEには該当せず、課税対象とはならない組織ですが、実質的な営業活動を行っていると認定され、経費をベースとした課税を受けています。
(2)コンサルティングPE
2000年代中盤から、コンサルティングPE認定により、出張者の個人所得税の183日ルールの適用を制限する事例が少なからず発生しました。 本来の目的である企業所得税ではなく、個人所得税課税を目的としてPE認定する珍しい形態です。
(3)出向者派遣
13年より、一定の要件に該当する出向者を実質的な長期出張者と見なしてPE認定する事例がありました。 最近では、このような認定は少なくなっているように思えます。
■3.ベトナムの場合
ベトナムは、PE認定に対してはそれほど熱心な国ではありません。 というのは、PEの有無にかかわらず課税できる外国契約者税の制度があるためです。
とはいえ、国際ルールとしての租税条約上はPEの定義づけがなされています。
(1)外国契約者税
外国契約者税とは、外国契約者(外国法人・外国人)がベトナム国内で役務を提供した際に、その対価に対して課される法人税、付加価値税等を指す概念です。 PEの有無にかかわらず課税されるため、積極的にPE認定がなされている状況ではありません。
(2)外国契約者税と租税条約との関係
国際間の取り決めである租税条約は、ベトナム国内法である外国契約者税に優先します。 日越租税条約および中越租税条約において、「非居住者企業が連続する12カ月内に、6カ月を超過する役務」をベトナム国内で提供しなければPEには該当しないため、外国契約者税(法人税部分)の課税は免除されます。 ただし、自動的に租税条約が適用されるわけではないため、所管税務局での事前免税手続きが必要となります(13年11月6日付財務省通達番号156/2013/TT-BTC第20条・第3項)。
中国・ベトナムにおける合併と課税について
合併に際してどのような課税が行われるかについて解説します。
■1.中国
(1)合併方法と企業所得税
中国の合併方法には、吸収合併と新設合併があります。
吸収合併は、1社が存続会社、他の会社は消滅会社となって、合併が行われる形式。 新設合併は、全ての会社が消滅し、新設の1社に吸収される形式です。
いずれの方法にしても、消滅会社の資産は時価で存続会社に譲渡されたと見なされるため、含み益に対して(譲渡益として)企業所得税が課税されます。
また、消滅会社に繰越欠損金がある場合、会社清算に伴う税務登記時にこれは消滅します。
(2)特殊性税務処理
グループ企業内の組織再編に際しては、一定要件を満たす事を前提に、特殊性税務処理と呼ばれる非課税組織再編が認められます(財税[2009]59号など)。
特殊性税務処理が認められれば、簿価処理が認められますので、消滅会社に対する譲渡益課税は回避できますし、少額ではありますが、繰越欠損金の引き継ぎも認められます。 合併に関する特殊性税務処理適用要件は、以下の通りです。
●合理的な商業目的があり、税額減少を主たる目的としていないこと。
●企業再編後、引き続く12カ月間は活動・資本構成に変更がないこと。
●同一支配下の合併で、対価の支払いを必要としない場合。もしくは株式による対価の支払いが全体の85%以上となる場合。
また、引き継ぎ可能な税務欠損金は、「被合併会社の純資産の公正価値×合併年度末の最年長国債の利率」となります。
(3)増値税・契税
1)増値税
「納税人の資産再編に関する増値税問題の公告(中国国家税務総局公告2011年13号)」では、消滅法人の全部または一部の実物資産およびそれに関連する債権、債務および従業員を一体として他の企業または個人に譲渡する場合は、増値税の課税対象にならないと規定しています。 この結果、包括的な合併においては増値税課税対象とはなりません。
2)契税
契税とは、不動産の譲渡に際して、購入者が負担する不動産譲渡価額に対する3~5%の税金ですが、会社法に定める一定の組織再編(非法人の法人化、持分譲渡、合併、分割など)に関しては、2027年12月31日まで課税が免除されています。
■2.ベトナム
(1)合併方法と法人税・個人所得税
ベトナムの合併方法には、吸収合併と新設合併があります。
吸収合併は、1社が存続会社、他の会社は消滅会社となって、合併が行われる形式。 新設合併は、全ての会社が消滅し、新設の1社に吸収される形式です。
いずれの方法にしても、消滅会社の譲渡に際して、譲渡益が発生する場合は法人税・個人所得税の申告・納付が必要となります。
また、消滅会社に繰越欠損金がある場合、発生から5年以内であれば引き継ぎ可能です。
(2)特殊性税務処理
合併時において、繰越欠損金は消滅しないため、グループ企業内の組織再編に際しての特殊性税務処理制度は設けられていません。
(3)付加価値税
会社の一部資産のみを譲渡の対象とする場合は、付加価値税の課税対象となりますが、株式会社・有限会社の出資持分の譲渡は付加価値税の課税対象とはなりません。 この結果、包括的な合併においては付加価値税の課税対象とはなりません。
以上