【Mizuno-CH中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.89
2023-10-10【中越ビジネスマニュアル 第 89 回】
中国・ベトナムにおける租税条約の適用申請について
中国もベトナムも、日本と租税条約を締結しています。租税条約の適用を受ける際の手続きについて解説します。
■ 1.中国
中国の場合、結論から言えば、日中租税条約適用に際して、特段の手続きは不要です。ただ、このような制度になったのは 2020 年1月からですので、その経緯を解説します。
(1)事前手続きの開始
09 年 10 月1日に、国税発[2009]124 号が施行され(すでに失効)、租税条約の恩恵を享受するためには、所得に応じて、以下の手続きを取ることが義務付けられました。
● 投資所得・譲渡所得を有する非居住者:所管税務機関で事前許可。
● 事業所得・賃金給与・各種報酬:所管税務機関で備案(届出)。
以上の通り、投資所得に関しては、税務機関の事前許可が必要で、関連書類(居住国の税務機関が発行した身分証明、契約書)、非居住者の実態を証明する書類(登記簿、会計監査報告書、その他)を提示して、申請する必要がありました。一方、事業所得・賃金給与・各種報酬については、弁法には備案が必要と規定されていますが、実際にはこの管理は行われておらず、183 日ルールなどは備案無しで適用が認められていましたし、備案申請しても受理されませんでした。
(2)制度変更
「非居住納税人の租税条約待遇享受管理弁法(国家税務総局公告 2015 年第 60 号・失効)」により、全ての所得が備案制に変更となるという、若干の規制緩和が実施されました。その後、「非居住納税者の協定待遇の享受管理弁法(国家税務総局公告 2019 年第 35 号)」により、20 年1月1日から租税条約適用手続きが本格的に簡便化されました。
現在では、租税条約適用は、納税者・源泉徴収義務者の自主判断となり、納税義務者・源泉徴収義務者が租税条約適用条件に合致していると判断する場合、租税条約条件に基づいて納税します。その上で、証憑書類を保管し、税務機関の求めがあれば、これを提示する必要があります。
■ 2.ベトナム
ベトナムの場合、結論から言えば、日越租税条約適用に際して、事前の手続きが必要です。22 年1月からは、運用面での改善がなされていますので、その経緯を解説します。
(1)事前手続きの開始
13 年 11 月6日に、財務省通達・第 156/2013/TT-BTC 号が発行され、租税条約の恩恵を享受するためには、以下の手続きを取ることが義務付けられました。
● 譲渡所得・事業所得・賃金給与・各種報酬を有する非居住者:所管税務機関で事前手続き。
税務機関での事前手続きは、関連書類(免税適格通知書、居住国の税務機関が発行した居住者証明、申請者署名のある労働契約書写し等の所得源泉を示す書類、申請書署名のあるベトナム到着日のイミグレーションスタンプページのパスポート写し、事業ライセンス写し等)を提示して、申請する必要があります。この手続き無しに、183 日ルールの適用は認められていません。
一方、投資所得(配当・利子・使用料)に関しては、租税条約の制限税率は一律 10%であるのに対して、ベトナム国内法で定められている外国契約者税率(企業所得税部分)および個人所得税率は、制限税率以下となっており、租税条約の優遇はありませんので、事前手続きは不要となります。
(2)制度変更
従前、租税条約適用に関する事前手続きは、受理がなされるのみであり、税務当局の承認の有無は不明であったため、後日、適用を否決される恐れがありました。また、租税条約自体の情報共有も進んでおらず、受理手続き自体も困難を伴うものでした。
このような実務上の不具合を是正するために、22 年1月1日より、税務局は申請書類の受領後 30 日以内(調査を要する場合は 40 日)に、承認の可否および否決の場合はその理由を書面にて通知することが定められました(財務省通達・第 88/2021/TT-BTC 号)。
中国・ベトナムにおける合併について
外資企業の合併のポイントについて解説します。
■ 1.中国
(1)合併手続き
外商投資法施行後、外資企業の合併については商務主管部門での手続きは不要(ネガティブリスト業種は除く)で、市場監督局での申請から手続きを開始することができます。
合併は、吸収合併と新設合併の2種類がありますが、ほとんどの場合は吸収合併方式が採用されます。両者の違いは、前者は「一方が存続・他の一方が消滅会社になる」のに対し、後者は「双方が消滅し、新設した会社に吸収される形」のことです。
合併手続き上、消滅会社の資産は税務上、時価で存続会社に譲渡されたと見なされ(含み益に対する課税が行われる)、消滅会社の税務欠損金は消滅します。
このように、消滅会社に対する税務上の不利がありますので、消滅会社が少ない吸収合併の方が相対的に有利です。
(2)合併のメリット
合併のメリットは「会社数の削減」、「人員の有効活用」、「損益通算」といえます。
合併すれば、消滅会社は分公司となりますので、拠点数を維持した上で、会社数が減らせます。また、本支店関係になれば、組織内の資金移動が可能になりますし、総公司(本店)の管理部門人員が分公司(支店)に対して一定の管理機能を行使できます。つまり、資金面でも人員面でも効率化が図れます。
また、損益通算ができるため、会計上の体裁が良くなるというメリットもあります。
(3)合併のデメリット
合併のデメリットは、上述の通り消滅会社の税務上の問題です。
ただ、資産の含み益に対する課税については、特殊性財務処理(財税[2009]59 号・国家税務総局公告 2015 年第 40・48 号など)を適用すれば回避できます。また、税務欠損金についても、特殊性税務処理が適用できれば、極めて限定的な金額(消滅会社の純資産の公正価値 × 合併年度末の最年長国債の利率)ですが、引き継ぎが認められます。
■ 2.ベトナム
(1)合併手続き
外資企業の合併については、新設会社もしくは存続会社は計画投資局(もしくは工業団地等管理委員会)での申請から手続きを開始しなければなりません。
合併は、吸収合併と新設合併の2種類があります。両者の違いは、前者は「一方が存続・他の一方が消滅会社になる」のに対し、後者は「双方が消滅し、新設した会社に吸収される形」であることです。新設合併方式は、存続会社・消滅会社間の優劣意識を取り除くことはできますが、2社の消滅手続きおよび企業文化、システムの統合にもさらに多くの時間・コストを要する点がデメリットであるため、ほとんどの場合は吸収合併方式が採用されます。
また、合併手続き上、消滅会社の税務欠損金は消滅しません。発生から5年以内の欠損金は引き継ぎ可能です。
(2)合併のメリット
合併のメリットは「会社数の削減」、「人員の有効活用」、「損益通算」といえます。
合併すれば、消滅会社は支店となりますので、拠点数を維持した上で、会社数が減らせます。また、本支店関係になれば、組織内の資金移動が可能になりますし、本店の管理部門人員が支店に対して一定の管理機能を行使できます。つまり、資金面でも人員面でも効率化が図れます。
また、損益通算ができるため、会計上の体裁が良くなるというメリットもあります。
(3)合併のデメリット
合併のデメリットは、まずは消滅会社の税務上の問題です。消滅会社は、合併の決定から 45 日以内に会計監査を実施するとともに、法人税・個人所得税の確定申告が求められており、その後に行われる税務調査のための準備にも多くの時間・労力が必要となります。実務上、適時に税務調査が実施されるかも不透明です。また、合併後の企業文化、システム、手続きの統一にも多大な時間・労力・コストが生じる点もデメリットといえます。
以上