【Mizuno-CH中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.85
2023-06-15【中越ビジネスマニュアル 第 85 回】
中国・ベトナムにおける貸倒引当金について
■ 1.中国
(A)会計
企業会計準則では、貸借対照表日の債権について、減損テストの実施を求めています。
つまり、回収可能額が簿価を下回る場合、貸倒引当金の設定が要求されます。
減損テストに際しては、債権を一定の基準に基づいてグルーピングします。
つまり、企業を信用状況・カントリーリスク等に応じて分類し、一定の比率を設定した上で、引当金を計上する。さらに、具体的な回収懸念が生じた債権については、個別状況に応じて、貸倒引当金を設定することとなります。
(B)税務
債権総額に基づく貸倒れ費用の損金算入は、財政部・国家税務総局が個別に認めた引当・準備金に限定され、企業が任意で設定した貸倒引当金の損金算入は、原則として認められません。
実際に、発生した貸倒れについての損金算入基準は、「企業資産損失税前控除政策に関する通知(財税[2009]57 号)」に定められていますが、以下の通り、厳しい要件が設定されています。
- (1)債務者が破産・解散し、その財産が弁済に不足する場合。
- (2)債務者が死亡もしくは法により失踪・死亡の宣告を受け、その財産が弁済に不足する場合。
- (3)債務弁済期限を3年以上超過し、かつ債務者に債務弁済能力が無いことが明確である場合。
- (4)債権者と債務者が、債務再編協議を締結もしくは債務者が法により破産した場合で、その弁済できない部分。
- (5)自然災害・戦争などの不可抗力で回収できない場合。
- (6)財政部・税務所管部門が規定するその他の場合。
■ 2.ベトナム
(A)会計
会計法(第 88/2015/QH13)では、貸借対照表日の資産について、合理的な価値に基づく評価が求められています。
また、ベトナム会計基準・第 14 号・第 14 条・18 条では、債権の回収が不確実である場合、貸倒引当金の計上が求められています。
従って、貸借対照表日の債権について、その回収が不確実である場合、貸倒引当金を計上しなければなりません。
(B)税務
債権に対する貸倒れ費用の損金算入は、財務省通達・第 228/2009/TT-BTC 号・第6条に定められた条件を満たす必要があり、契約書、解約覚書、債務残高確認書などを含む書類原本により不良債権であることが証明できること、および延滞債権にかかる確認書の存在や、破産・清算手続き中の経済組織もしくは失踪・起訴・拘留・服役中・死亡した債務者が有する債務であり不良債権として認識するに足る十分な根拠を有する必要があります。
これらの条件を満たしたうえで、延滞債権の場合は、以下の延滞期間に応じて貸倒引当金を計上します。
- (1)6カ月超※1年未満:債権額の 30%
- (2)1年以上2年未満:債権額の 50%
- (3)2年以上3年未満:債権額の 70%
- (4)3年以上 :債権額の 100%
延滞債権ではなく、債務者の破産・清算手続き・失踪・起訴・拘留・服役・死亡により回収が不確実な場合は、その損失を見積もり、貸倒引当金を計上します。
※6カ月「超」ではなく、6カ月「以上」という誤訳が多く見られますが、6カ月「超」が正となります。
中国・ベトナムにおける固定資産と減価償却について
中国とベトナムの固定資産計上と減価償却基準について解説します。
■ 1.中国
(1)固定資産の計上
会計上(企業会計準則)は、「製品の生産、役務の提供、賃貸または経営管理を目的として保有するものであり、耐用年数が1会計年度を超えるもの」を固定資産計上することを定めており、金額基準は設定されていません。
また、実質価値が下落している固定資産については、評価損の計上(評価損失引当金の計上)が義務付けられます。
税務上(企業所得税法)も、固定資産の定義を「企業が製品を生産し、役務を提供し、賃貸し、または経営管理をするために保有する、使用期間が 12 カ月を超える非貨幣性資産を指し、建物、構築物、機器、機械、運輸工具およびその他の生産経営活動と関係する設備、器具、工具等を含む」と規定しており、金額基準の設定はありません。
ただし、「固定資産の加速度償却の改善に関する企業所得税政策の通知(財税[2014]75 号)」に 5,000 元以下の資産は固定資産計上せず、購入年度の一括損金算入を認めていますので、実務上はこれが会計・税務上の実質的な金額基準です。
会計上の評価損失は、税務上は損金不算入となります。
(2)減価償却方法
会計上は、定額法、生産高比例法、200%定率法、級数法が認められています。
税務上は、原則的な方法は定額法のみですが、所管税務機関の加速度償却の許可を取得した場合、級数法もしくは 200%定率法の採用が認められます。
残存価値の制限はなく、1元の備忘価格のみを残存価値として減価償却することも可能です。
税務上は、以下の年数を最低償却年限と定めています。
- a. 建物、構築物:20 年
- b. 列車、船舶、機械、その他生産設備:10 年
- c. 生産経営活動に関連する器具、工具、家具等:5年
- d. 航空機、列車、船舶以外の運輸工具:4年
- e. 電子設備:3年
減価償却は、使用の翌月から開始します。
また、資産の使用を停止した場合は、停止の翌月より減価償却を停止します。
■ 2.ベトナム
(1)固定資産の計上
会計上(企業会計基準・第3号・第6条)は、以下4つの計上基準を全て満たす場合、固定資産として計上します。
- (A)将来の経済的利益が確実に得られる。
- (B)取得原価が信頼できる方法で決定されている。
- (C)耐用年数が1年以上と見積もられている。
- (D)現行基準に従い、全ての価値基準を満たしている。
また、会計法(第 88/2015/QH13)・第 28 条では貸借対照表日の資産一般について、合理的な価値に基づく評価が求められていますが、企業会計基準・第3号(固定資産)では、評価損に関する規定はなく、耐用年数の見直しに関する規定のみ定められています。
税務上(財務省通達・第 45/2013/TT-BTC 号)は、以下3つの規準を全て満たす場合、固定資産として計上します。
こちらは、固定資産の金額基準が定められていますが、会計基準同様に評価損に関する規定は定められていません。
- (A)当該資産の使用により将来の経済的利益が確実に得られる。
- (B)使用期間が1年以上である。
- (C)取得原価は正しく測定されており、その価額が 3,000 万ドン以上である。
(2)減価償却方法
会計上は定額法、定率法、生産高比例法が定められています。
税務上は、定額法、定率法、生産高比例法に加え、加速度償却法も認められていますが、中国同様に定額法が原則であり、その他の減価償却方法を適用するには、中古設備でないことなど、それぞれ一定の条件を満たす必要があります。
加速度償却法を適用した場合、定額法における最大償却額の2倍を超える額に関しては損金算入が認められません。
なお、会計上は、減価償却対象額は取得原価から見積もられる廃棄費用控除後の残存価額を控除したものとされていますが、税法上は取得原価全額を対象に減価償却を行うことが定められています。
償却期間は、以下のように資産毎に最低期間と最大期間が定められているので、企業の実情に応じて選択します。
- a. 建物、構築物:5~ 50 年
- b. 車両、列車、船舶、航空機、その他運搬設備:6~ 30 年
- c. 機械、その他生産設備:3~ 20 年
- d. 器具、工具:2~ 10 年
- e. 電子設備:3~ 10 年
*上記は概略であり、建物のうち、倉庫は5~ 20 年というように、上記期間はさらに細分化されています。
減価償却は、固定資産が使用可能な状態になった時点から開始しますが、使用前の減価償却費は損金算入を否決される恐れがあります。
以上