中国・ベトナムにおける休眠制度、租税条約の適用申請について【水野コンサルタンシー中国・ベトナムビジネス情報】 ダイジェスト版Vol.102
2024-11-11【中越ビジネスマニュアル 第 102 回】
中国・ベトナムにおける休眠制度について
一定期間、会社を閉鎖(登記抹消)しないまま活動停止する休眠制度について、中国とベトナムの情況を解説します。
1.中国
個体工商戸(個人商店)を除き、休眠制度はありませんでしたが、2021年に施行された「市場主体登記管理条例(国務院令2021年第746号)」に、休眠規定が織り込まれ、制度が開始されました。
(1)休眠規定
「市場主体登記管理条例」・第30条には、休眠規定が以下の通り織り込まれています。
●自然災害、事故災害、公衆衛生問題、社会安全問題により、経営上の困難が生じた場合、市場主体は法律、行政規則に別途の規定がある場合を除き、一定期間の休業を決定することができる。市場主体は休業前に、法律に基づき、社員と労務関係を協議し、関連事項を処理しなくてはならない。
市場主体は、休業前に登記機関(市場監督局:筆者注)で備案(届け出)しなくてはならない。登記機関は国家企業信用情報公示システムを通じて、休業期間や法的文書の送達住所を公示する。休業期間は3年を超えてはならない。休業期間中に事業活動を行った場合は、事業を再開したものとみなし、国家企業情報公示システムを通じて、社会に公示しなくてはならない。市場主体の休業期間は、法律文書の送達場所を住所・主たる経営場所に代替することができる。
(2)休眠制度の意義
休眠制度を活用することで、3年以内という期間制限はありますが、従業員無し(上記の通り、労働契約法に基づき適切に従業員と協議した上で、経済補償金を支払うことが前提となります)、オフィス無し(行政機関からの法律文書の送達場所を市場監督局に届け出る必要あり)で、会社組織を存続させることができます。
ただ、前提として「自然災害、事故災害、公衆衛生問題、社会安全問題により、経営上の困難が生じた場合」と規定されていますので、実務上、通常の経営上の問題が受理されるか否かは行政機関(市場監督局)の判断に左右されます。
2.ベトナム
ベトナムでは、投資法、企業法、政令において休眠制度が定められています。
(1)休眠規定
活動を停止する場合、投資者は書面にて投資登記機関(計画投資局・投資登記課)に通知します(投資法・第47条・第1項)。 この通知は、活動停止の決定から5営業日以内に行う必要があります(政令・第31/2021/ND-CP号・第56条・第3項)。 また、活動停止の最長期間は12カ月です(同政令・同条・第2項)。 次に、企業は企業登記機関(計画投資局・企業登記課)に対して、実際に活動を停止する日の3営業日前までに書面にて通知します(企業法・第206条・第1項)。 なお、通知した停止予定期間よりも前倒しで活動を再開する場合、再開日の3営業日前までに書面にて通知する必要があります。
(2)休眠制度の意義
従業員との合意に基づき、労働契約の履行を一時停止することが可能です(労働法・第30条・第1項)、また家賃負担を軽減するために事前に小規模なオフィスに住所を移転するといった対策も可能です。
中国・ベトナムにおける租税条約の適用申請について
租税条約の適用について解説します。
1.中国
(1)軽減税率適用申請
2009年10月1日に、国税発[2009]124号(失効)により、租税条約の恩恵享受に対しては、事前手続き(許可・備案=届け出)が必要となりました。 ただ、その後の制度変更(国家税務総局公告2015年第60号・失効)を経て、現在では「非居住納税者の協定待遇の享受管理弁法(国家税務総局公告2019年第35号)」により、再度事前手続きが不要となっています(20年1月1日より)。
現状、租税条約適用は納税者・源泉徴収義務者の自主判断であり、納税義務者・源泉徴収義務者が租税条約適用条件に合致していると判断する場合、租税条約条件に基づいて納税。その上で証憑書類を保管し、税務機関の求めがあれば、これを提示することが求められます。
(2)軽減税率の適用を検討する場合
中国内にPE(恒久的施設)の無い非居住者に対する課税率(源泉徴収税率)は、企業所得税法第4条に20%と規定されていますが、同法実施条例第91条により10%に軽減されています。 日中租税条約の場合、投資所得に対する軽減税率(制限税率)も10%であるため、日本に対する配当・利子・使用料の支払いにおいては、通常の場合は租税条約の適用を考慮する必要はありません。 一方、香港・シンガポール等に対しては、「25%以上出資の親会社に対する配当は5%、利子は7%」というような軽減税率がありますので、この適用を検討する局面があります。
(3)最近の動向
最近、香港に対する配当の調査を受けたという声を各地で聞きます。 この際に重要となるのは、配当を受領する香港の親会社の実体・機能ですが、それ以外に「租税条約における受益所有者関連問題に関する公告(国家税務総局公告2018年第9号)」に基づく、優遇適用のネガティブ要素の有無です。 つまり「所得を受け取った12カ月以内に、所得の50%以上を第三国・地域の居住者に支払う義務がないか(義務があるとは、約定はないものの、支払いの事実があった状況を含む)」という点です。
2.ベトナム
(1)軽減税率適用申請
13年11月6日に、財務省通達・第156/2013/TT-BTC号により、租税条約の恩恵享受に対しては、事前手続きが必要となりました。
税務機関での事前手続きは、関連書類(免税適格通知書、居住国の税務機関が発行した居住者証明、申請者署名のある労働契約書写し等の所得源泉を示す書類、申請者署名のあるベトナム到着日のイミグレーションスタンプページのパスポート写し、事業ライセンス写し等)を提示して、申請する必要があります。 この手続き無しに個人所得税に関する183日ルールの適用は認められません。
(2)軽減税率の適用を検討する場合
ベトナム国内法における外国契約者に対する法人税の課税率は、配当は非課税、利子は5%、使用料は10%となっています。
日越租税条約の場合、投資所得に対する軽減税率(制限税率)は10%であるため、日本に対する配当・利子・使用料の支払いにおいては、租税条約の適用を考慮する必要はありません。
一方、ベトナム非居住者(個人)の給与所得に対しては、日越租税条約にて免税規定が定められていますので、一定条件を満たす出張者等は租税条約の適用を検討する局面があります。
(3)最近の動向
従前、税務局での租税条約適用に関する事前手続きは、受理がなされるのみであり、承認の有無は不明であったため、後日適用を否決される恐れもありました。 適用を否決された場合、遡って課税されるのみならず、遅延利息の支払いも発生するため、申請自体にリスクを伴うものでした。 また、税務局において租税条約自体の情報共有も進んでおらず、申請手続き自体も困難を伴うものでした。
このような実務上の困難を是正するために、22年1月1日より、税務局は申請書類の受領後30日以内に承認の可否(調査を要する場合は40日)および否決の場合はその理由を書面にて通知することとなり、手続きが改善されています(財務省通達・第88/2021/TT-BTC号)。
以上